不安定で先が見通せず、変化の激しい世の中でもうまくチームを引っ張っていくリーダー達が存在する。彼らの行動ってなんなんだろうか?と思い探し出すと「センスメイキング」というキーワードに行き着く。
現在も盛んに研究が継続され、理論としては成熟しきってはいない。昨今のコロナ禍の状況もまさに予期しないイベント。この状況下で如何にリーダーが皆を引っ張るか試されている中、このセンスメイキング理論にはリーダーがどの様なことを考え行動するべきか示唆がある。
この記事では先般より読み進めている、早稲田大学教授入山章栄さん著『世界標準の経営理論』 第23章センスメイキング理論 の内容をベースに、初見の人でも理解を促進できる様、自ら理解した内容をできるだけ噛み砕いて内容を記載できればと思う。
(補足)
最近、興味があり西野さんのオンラインサロンに入り中を興味深く覗いておりますが、まさに西野さんの考え方、やり方に惹きつけられている人が多いこともこのセンスメイキング理論の最先端をも黙々とつっ走っているんだなと感じます。
どうぞ良しなに。ご参考まで。
- この記事が参考になると思われる方
- ハンガリー軍のアルプスでの遭難ストーリー
- そもそも正しい事実とは?
- センスメイキングが生かされる環境とは
- センスメイキングがあるから危機を乗り越えられる
- センスメイキングの重要な示唆
- 7つのセンスメイキングに必要な要素
- 感想
この記事が参考になると思われる方
著者曰く、このセンスメイキング理論は「見通しの難しい、変化の激しい世界で組織がどの様に柔軟に意思決定し新しい物を生み出していけるか」に多大な示唆を与える。とのこと。
この文章をみて現在の科学的研究から根拠付けられている「示唆」が何なのか興味を持つ方。
ハンガリー軍のアルプスでの遭難ストーリー
センスメイキングで検索すると以下の様な話が出てくる。
ハンガリー軍がアルプス山脈で遭難。装備も失った中たまたまある隊員の一人がポケットから地図を見つけ、これを下に下山できる!と確信して下山を決意。地図をもとに無事下山に成功。しかし、下山後によくよく地図を確認すると、アルプスの地図ではなく、ピレネーの地図だった。
このストーリーがセンスメイキング理論の大枠を捉えている。つまり、正しい事実をもとにしなくても、皆が「腹落ち」していれば組織は前へ進め、通常だと不可能と思われることに対しても成功を収められるということである。端的には納得感のあるストーリーテリングが必要ということになる。
センスメイキングとは
日本語訳した際、まさに上記の「腹落ち」や「納得」と捉えると理解しやすい。この「腹落ち」を経営の中で理論化したものがセンスメイキング理論となる。
この章のキーメッセージ
「優れた経営者・リーダーは、組織・周囲のステークホルダーのセンスメイキング(納得感)を高めれば、周囲を巻き込んで、客観的に見れば起きえないような事態を意図してひき起こせる」ということ。まさに「未来を自らの手でつくり出す」ということ。そのために必要なことは、多義的な世界で、未来へのストーリーを語り、周囲をセンスメイク(納得・腹落ち)させ、足並みを揃え、環境に働きかけて、まずは行動する事が必要。これこそが、さらに多義的になるこれからの世界で、リーダーに求められることである。
そしてセンスメイクするためには以下7つの要素を気にするとよい。
- アイデンティティ
- 回想・振り返り
- 行為
- 社会性
- 継続性
- 環境情報の部分的感知
- 説得性・納得性
以下の章ではこの内容を哲学的な背景も絡めながら順に説明がされる。
ご興味に応じてどうぞ。
そもそも正しい事実とは?
筆者はセンスメイキング理論を理解する上で多少哲学的な物の見方について理解したほうが理解が進むとしている。以下では実証主義(positivism)、認識論的相対主義(relativism)の説明が続く。
実証主義(positivism)と認識論的相対主義(relativism)
例えば、目の前にある物体(バナナでもカメラでも何でもいい)がある。
はたして、自分から見えているその物とが横にいる別の人からも同じ様に見えているのだろうか?
他人がその物をどの様に認識しているかは本人にしかわからず、独自の認識のフィルターを通してしか物を見ることができないため、同一であると言い切れる保証がない。
こういった物の捉え方について哲学的には2つの見地があり、1つ目が実証主義、2つ目が認識論的相対主義である。
実証主義では、「絶対的な真実・真理がある」という立場であり、上記のような一つの物は誰が見ても同じであるという立場である。少し抽象化すると、「自分とそれ以外の環境は分離していて、自分は物を正確に観察・分析することでその物を知ることができ、またそれを他人と共有できる」
逆に、認識論的相対主義では「物の見え方・認識は、見る人とその周りの環境相互に依存している」という立場を取り、複数の人が「絶対的な唯一のもの」を共有することは難しいと考える。
経営論への応用
実証主義的な立場だと、自分が今直面しているビジネス環境は、誰しもが同一に見える絶対的なものであると考える。そのため、事業環境を正確に分析すれば、普遍的な真実・真理(正しい経営判断)が得られる」という前提にたつ。この場合リーダーにとって重要なことは正確に観察して、分析することになる。
一方、相対主義的な立場だと、誰しもが共通する「絶対的なビジネス環境の真理(絶対的に正しいビジネス判断)」は存在しない。行動して、ビジネス環境に働きかけると、環境認識自体も変化していく。実態とは人の認知の中で作り上げられるものであり、人の認識・解釈を通じて創造され、制度化され、習慣化されていく。
センスメイキング理論は後者、認識論的相対主義に近い立場を取ると考えると理解が進む。
センスメイキングが生かされる環境とは
センスメイキングは新しい、これまでにない、混乱的、先行きが見えないなどの環境下で重要になり、以下3つの種類の環境を想定している。
- 危機的な状況(crisis):市場の大幅な低迷、ライバル企業の攻勢、急速な技術変化、天変地異、企業スキャンダル、パンデミックもここに相当するのかと
- アイデンティティへの驚異(threat to identity):急激な業界環境の変化により、自社の事業・強みが陳腐化して「この会社はそもそもどうしていけば良いのか」「なんの会社なのか」というようにアイデンティティが揺らいでいる状況。
- 意図的な変化(intended change):新事業への投資活動など
この様な状況化
センスメイキングのプロセス
センスメイキングは前述の認識論的相対主義を前提として以下の4つのプロセスからなる。
環境の感知(scanning)
文字通り、環境の感知のプロセスとなる。
解釈・意味付け(interpretation)
前例の無い不安定な事業環境の中、同一の事象が起こったとしても解釈・意味付けのやり方で多義的になる。今何が起きているのか、問題の原因はどこにあるのか、何をすべきなのか ということに対して絶対的な一つの見解を見つけることが不可能な状況。
センスメイキングでは「組織の存在意義は、解釈の多義性を減らし、足並みを揃えることにある」と考える。組織化という。
となると、リーダーに求められるのは『多様な解釈の中から特定のものを選別し(selection)、それを意味づけ、周囲にそれを理解させ、納得・腹落ち(sense making)してもらい、組織の方向性を揃えること』となる。
ここで重要なのが納得性(plausible:もっともらしさ)となる。
以下ワイクによる2005年オーガニゼーション・サイエンスからの引用。
Diverse as these situations may seem, efforts are made to construct a plausible sense of what is happening, and this sense of plausibility normalizes the breach, restore the expectation, and enables projects to continue.
the concept of sense-making suggests that plausibility rather than accuracy is the ongoing standard that guides learning. *1
多様性がある状況では納得性のある説明に力が注がれ、その納得性によって状況が改善され前に進む。時には、正確性よりもこの納得性が重要となる。
求められるのは、「現状はどうなっているのか」「我々は何をすべきか」についておおまかな方向性だけを示し、それに意味を与え、説得性のある言葉で周囲に語りかけて納得してもらい、足並みを揃えること
つまりはストーリー性・ストーリーテリングが重要ということである。昨今他でも言われることが多いストーリー性について、学術的な背景はセンスメイキング理論からくるものである。
経営者がストーリーとして事業を説明した方が出資額が多くなったといった科学的研究結果がある。*3
行動・行為(enactment)
本からの引用。
多義的な世界では、「何となくの方向性」でまず行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要がある。そうすれば、その認識された環境に関する解釈の足並みをさらに揃えることができる。このように、環境に行動をもって働きかけることを、イナクトメント(enactment)という。*4
例えば、ある森を初めて探検する人が、いくら入り口の前で森の中の状況を推測しても、自分が何に遭遇するかはわからない。探検者は、実際に森に飛び込むことで初めて、道に迷うなり、熊に遭遇するなり、泉を見つけるなり、何かの事態に出会う。そして道に迷ったり、熊に遭遇した時、探検者はその予想外な事態の瞬間に、冷静な現状分析をする余裕はない。むしろ、必死の行動から逃げ切って森を抜け出た後になって、「ああ、あれはこういう事態だったのだな」と納得(センスメイキング)するのである。*5
センスメイキングがあるから危機を乗り越えられる
一般的に、「センスメイキングが高い組織ほど、あらゆる危機的状況を乗り越えやすくなる」という研究結果が得られているとのこと。
センスメイキングの重要な示唆
最初のアルプスの雪山の例を思い出すと、通常まともに考えた場合には不可能だとオモされることが「思い込むこと」で実現した。
「通常不可能と思われることも、ある程度の方向性を持って信じて(腹落ちして)進めることで実現してしまうという力が人にはある」ということになる。セルフ・フルフィリング(自己成就)という。これは認知バイアスの一つとしても考えられる。
つまり、優れた経営者・リーダーは、組織・周囲のステークホルダーのセンスメイキングを高めれば、周囲を巻き込んで、客観的に見れば起きえないような事態を意図してひき起こせる」ということ。まさに「未来を自らの手でつくり出す」ということに他ならない
そのために必要なのは、多義的な世界で、未来へのストーリーを語り、周囲をセンスメイクさせ、足並みを揃え、環境に働きかけて、まずは行動する(イナクトメントする)ことだ。これこそが、さらに多義的になるこれからの世界で、リーダーに求められることである。
何を意識すればセンスメイキングできるのか、次に7つ上げる。
7つのセンスメイキングに必要な要素
- アイデンティティ:自身あるいは自身が所属する組織が何であるか?のアイデンティティに基づいている
- 回想・振り返り:人は経験している最中はセンスメイキングできない。事後的に振り返ることでのみセンスメイクできる
- 行為:行動することで環境に働きかける事ができる
- 社会性:センスメイキングは常に他者(社会)との関連性のなかで起きる
- 継続性:繰り返される、循環プロセスである
- 環境情報の部分的感知:人は認知のフィルターを通してしか事象が認識できないので、認識・解釈されたものは綱に全体の一部でしか無い
- 説得性・納得性:
感想
この章の内容はいくつも思い出す事があった様に思う。
- これまで自分の思考の癖としていつもやってみないとわからないのになーと思っていたことをフォローする内容にも感じた。例えば、何か知らない新しい事を始める時、ある程度の調査はするもののこれをやればできるようになるということが全て整わないと始めないとなると何時までたっても始められない。まずは何でもいいので関連することやってみると見える範囲が広がり次が見えていくる。そういった経験がある。ある程度の方向性をつければ、「やってみる」ことで道がひらけて来たという感覚がある。今はAI、MBA、マイクロソフトAzureなど自分にとって新しい事が気になり続けているが、やはり やってみてから考える という事を心がけて進めようと思う。またそれは程度的を射た考えなんだなと「納得」した。
- この章を読んで、自分の元々持っていたこういった やってみないとわからないじゃないか という思考の癖に対して、納得性が持てる様になったもこの本・章を読んだベネフィットだなと感じる。
- ふと思い出すのはスティーブジョブスの名演説、ドットが線になりつながるという話。予め全てを想定しているのではなく、行動することで環境の見え方も変化して繋がったんだと理解することに納得感がでた。
- その他、過去キャリアに悩んだ際、モチベーションアンドリンクのキャリアコンサルの方からのアドバイスも思い出す。山の頂上(ゴール)が見えず迷う時、時には川を下ること(通常だと頂上から離れてマイナスに思われることでも)で、自分のいる場所が移動し今まで見えなかった頂上が見える様になる」と言われたのも思い出す。その場に留まっていたら何も変わらない。極端にいうと、(何でも良いので)やってみようということ。
- また、最近参加した西野さんのオンラインサロンで垣間見る西野さんの行動は、センスメイキング理論的なリーダーシップの最先端を体現しているなとつくづく感じる。ディズニーを超えるという目標に対して様々な準備をし、それを見聞きする者はなんとなく、これ、いけるんじゃないか?と納得・腹落ちし、皆の意思が統一され同じ方向に向かう。6万人を超えるメンバーが同じ方向に向かって大きな力となっているのがなぜなのかの理解が深まった様に感じる。
- センスメイキング7つの要素の1つ「環境情報の部分的感知:人は認知のフィルターを通してしか事象が認識できないので、認識・解釈されたものは綱に全体の一部でしか無い」という考え方は常日頃から持つようにしたい。
*1:Weick, K. E. et al., 2005. “Organizing and the Process of Sensemaking,”
*2:入山 章栄. 世界標準の経営理論 (Japanese Edition) (Kindle Locations 7977-7978). Kindle Edition.
*3:Martens, M. L. et al., 2007.“ Do the Stories They Tell Get Them the Money They Need? The Role of Entrepreneurial Narrativesin Resource Acquisition, ”Academy of Management Journal, Vol. 50, pp. 11071132.
*4:入山 章栄. 世界標準の経営理論 (Japanese Edition) (Kindle Locations 8028-8031). Kindle Edition.
*5:入山 章栄. 世界標準の経営理論 (Japanese Edition) (Kindle Locations 8031-8036). Kindle Edition.