やっぱり本で読みたいということで日本から送ってもらいました。『世界標準の経営理論』。ぶ、分厚い、、、
どこから読んでもいいと前書きにあり、気になる心理学関連の第3部から読み、このブログでもいくつかまとめをアウトプットしていましたが、結局前章を参照することが多く読みづらかったので、気を取り直して最初から読もうとういことで第1章。
SCP(structure-conduct-performance:構造・遂行・業績)理論に関する内容。
もともと経済学のお話でしたが、有名なポーターさんが1970-80年代に経営学へと昇華させた。
簡単に言うと、「独占に近づいた方が儲かりまっせ」という理論。
なんとなく感覚ではそうなんだろうなと言うことがわかってはいるものの、
- ミクロ経済学のよくあるグラフから利潤が最大になることの説明が明快で理解できること
- どういうポイントを意識すると独占に近づくのか?ということへの示唆が得られること
- 現代のプラットフォーマーの隆盛が説明できること
などが読んで良かったなというところ。
どうぞよしなに。ご参考まで。
完全競争とは
独占状態の対局である完全競争状態についてまずは定義している。
- 条件1(価格操作不可):市場に無数の企業が存在して、どの企業も市場価格に影響を与えられない。
- 条件2(参入・撤退障壁0):市場に新規で参入する際のコストが0。また撤退コストも0。
- 条件3(差別化なし):提供する製品・サービスが同業他者と比べて同じ。差別化がない
- 条件4(経営資源の移動自由):製品・サービスを作る経営資源(人・技術など)が他企業にコストを要さずに移動できる。
- 条件5(技術ダダ漏れ):製品・サービスの情報を顧客・他社が持っている
※経済学の暗黙の前提として「企業・消費者は合理的な意思決定を行う」が常にある。
独占時に利潤最大化
ミクロ経済学のグラフを用いながら数学的に独占時に利潤が最大化することが説明されているが、直感的にも当てはまるので詳細説明は割愛。
ポイントとして、あらゆる企業は以下の2つの状態の間のどこかに存在する
完全競争状態→超過利潤0
完全独占→超過利潤最大
経済学のSCP
経済学のSCPの根本は「完全競争の状態から離れるほど(独占に近づくほど)企業の収益率は高まる」とうこと。
完全独占までは行かないいくつかの企業に売上が集中している寡占状態はどうだろうか。この場合、1社の行動が他社に影響を及ぼす度合いが大きくなり条件2が崩れる。
A,B,C社で寡占している際、A社が価格を下げるとB,Cも追随し値下げ合戦となってしまう。経済学の大前提であるA社が十分に「合理的」であれば価格引き下げを行わない「暗黙の共謀」(tacit collusion)状態になる。
例として、日本のビール業界→大手4社の寡占で値下げが起きない。コーラ業界のペプシとコカ・コーラ。
寡占になりやすい業界とは?
条件2の「参入障壁」を崩すところにポイントが有る。
規制・法律などの制度に加えて「規模の経済」(economic of scale)の要素が効く業界が寡占状態になりやすい。
思い出すのは携帯事業。周波数もライセンスが必要+アンテナ設置に対しての設備投資が莫大。規模の経済が強く働く産業は実質的に参入障壁が高く独占・寡占に近づく。
孫さんがドコモ・KDDIの2強状態の時に巨額の借金をしてでも参入した裏には、現代の3社で寡占している状態が描けており、利潤が高く保てるという事をわかっていたのではないかと想像すると、当時は奇抜に見えた行動が忠実に基本に従っている賭け要素が少ない行動だったんだと理解できる。
経営学のSCP
これまでは産業自体が独占・寡占の性質を持っているという考えであったが、ケイブス、ポーターが共同で1977年に発表した論文で有名。経営学のSCPと昇華させた。
ポイントとしては一つの産業の中でも「企業間の移動障壁」があるという条件3に関わるポイントである。
同じ産業内でも特性の似通った企業が複数ありグループが存在する。
例として自動車産業のなかでの軽自動車・ラグジュアリカー、、、などのグループがある。
「同じ産業にも企業特性ごとにグループが有り、企業収益にとってより本質的なのはそのグループ間の移動障壁である」というところがポイントとなる。つまり「差別化」をすることにより移動障壁が高くなりそのグループ内で利潤を高められるということになる。
現代のプラットフォーマーの例
GAFAMに代表される現代のプラットフォーマーは独占状態に近い状況になっている。この理由としてネットワーク効果というものがある。
「ユーザーにとって他の多くの人が同じ製品・サービスを使うほど自身もそれを使う効用が高まる」
GAFAM、アリババ、テンセントなど現代のプラットフォーマーはもっぱらこれを利用している。ケイブス、ポーターの主張した「差別化」から進化して、ネットワーク効果により独占に向かっている。
最近だとPayPayが100億円キャッシュバックなどでユーザー数を増やそうとしていたが、これも深く納得がいく。
ITが進みコミュニケーションがより柔軟に迅速に行える世の中では、過去には想定していなかったこのネットワーク効果を得ることで独占状態に協力に進める事ができ、みなこぞってこれを利用しようとしている ということである。
なるほどー。企業の行動の裏側がわかる上に、個人のキャリア戦略でもどの方向に進むべきかの示唆が得られて面白いですな。