前回に引き続き「世界標準の経営理論」第2章のまとめ。
前章ではポーターが発展させたSCP理論の根本(要は完全競争状態からあらゆる手段を使い逃れれば収益性は上がるということ)を説明したが、第2章「SCP理論をベースにした戦略フレームワーク」では、じゃー、何を意識すればいいの?という事を端的に知ることができるフレームワークの解説・それらをどの様に捉えるべきかの記載がある。また、後半では現代でもこれらフレームワーク、理論について一定の有効性はあるものの、理論の背景・前提(市場は「安定」していて「均衡状態に向かう」ということ。また人間の認知を意識していないこと)を理解していると如何に近代のビジネス環境とずれてくるのかが解説されている。
どうぞよしなに、ご参考まで。
- SCPフレームワーク1:ファイブフォース
- SCPフレームワーク2:戦略グループ
- SCPフレームワーク3:ジェネリック戦略
- フレームワークを細かく覚える必要は無い
- SCPの限界
- SCPの限界をどう考えるか?
SCPフレームワーク1:ファイブフォース
よくあるフレームワーク。以下が指標。
フォース1:潜在的な新規参入企業(force of potential entrants)
フォース2:競合関係(force of rivalry)
フォース3:顧客交渉力(force of buyer)
フォース4:売り手の交渉力(force of supplier)
フォース5:代替製品の存在(force of substitues)
ポイントとして、これらのフォースが強くなると完全競争状態に近づくことになる。そのため独占・寡占を目指すためにこれらのフォースを弱める動きが必要。
面白い考え方として、この指標が将来予測にも利用できる。
例えば、ITの進展→製品・サービスの比較が容易となる→顧客交渉力の向上につながる。IT投資が重要→参入障壁が大きくなる。
SCPフレームワーク2:戦略グループ
同じ業界のなかでも、自社がどの様な企業グループに属するかを意識し、如何に完全競争状況から逃れるかを考える。
SCPフレームワーク3:ジェネリック戦略
大きく分けると「コスト主導戦略(cost leadership strategy)」、「差別化戦略(differentiation strategy)」
どちらを選択すべきか?→よほどの事がない限り後者「差別化戦略」に注力した方が良い。
差別化できると価格勝負を避けられる(フォース2が弱まる)。また、差別化によりロイヤルティを持った顧客は他社製品、代替製品に移りにくくなる(フォース3,5が弱まる)。
よほどの事とは、「その企業が圧倒的なコスト優位を持って市場シェアを大きく取れる場合」である。こうなると独占の方向に進む。
これで成功している例としてはウォールマート。
巨大な流通・ITシステムにより「規模の経済」を実現、参入障壁を高めている。また、地方を中心に出店し大手ライバル企業と異なった戦略グループで低価格戦略によりシェアを取得。コスト主導戦略はコストだけではなくその他の戦略と緻密に整合性がとれていないと成功しない。
両立はできるか?→かなり難しい。
サムスンの例。半導体業界では、18−24ヶ月で半導体の集積度が倍増するというムーアの法則が前提にあり、半導体の新製品を定期的に作っていく必要がある。
新製品に対しては先行投資を積極的に行い、どこよりも早く新製品を出し差別化する。
一方2,3世代前の旧製品については値崩れするが、コスト主導戦略を徹底してシェアを取る。
フレームワークを細かく覚える必要は無い
いずれも「完全競争に近づくほど収益性は下がり、独占・寡占に近づくほど集積性は高まる」というSCP理論の根本が共通している。フレームワークは便利だが、結局この根本を達成することを考え行動すればよい。
SCPの限界
時代を経て研究が進む中SCPの理論と辻褄が合わない研究結果が出てきている。それをどう捉えれば良いか、以降概要が記載されている。
収益性は産業構造だけできまるか?
いくつもの企業収益性の研究から最大でも20%程度しか収益性が産業構造に因ることはない。また最大50%程度は企業活動が重要。戦略グループとして考えた場合も 戦略グループと収益性の間に相関性(統計的に有意な違い)は無い という結果が得られている。
心理的な戦略グループ
戦略グループは様々な評価指標(地域の広がり、顧客セグメントなど)を規定して機械的にグループ分けを行っていたが、上記の様にそのグループ分けではSCP理論をフォローする結果が得られなかった。だがこのグループを「心理的な戦略的グループ」(経営者、幹部があそこは我々の競合だと思う企業の集まり)とした場合、SCP理論をフォローする結果が得られた。
現代はこういった認知・心理を加味した研究が進められておりトレンドとなっている(2部、3部でのトピックとなる)。
一時的な競争優位
SCP理論では「一度優位になると高い業績を長い間(10年程度)安定して上げる事ができる」と考えていたが、近年の研究では当てはまらないという結果が多く出ている。
①持続的な競争優位を実現できている企業は2−3%
②業績が落ちかけても、新しい手をうち業績を回復できる企業が増えている
ということが研究結果として出てきている。
サマリとして、
今の時代に勝っている企業は、SCPが前提としていた「(10年程度続く)持続的な競争優位」ではなく「一時的な競争優位を連鎖して獲得している企業である
という一定の理解が共通している。
SCPの限界をどう考えるか?
2点指摘している。
1点目はSCPが市場が「安定」していていずれ「均衡状態になる」ということを前提としている事があげられる。規制緩和・ITの発展・グローバル化(ハイパーコンペティション)により市場を規定する参入・移動の条件が目まぐるしく変わっている。いわゆる不確実性が高い状態。前提が違うので当てはまりにくくなってきている。
2点目が人の認知面を無視している事が挙げられる。SCP理論の大前提として「合理的」というものがあったが、人は認知を行い物事の決断をする。認知が関わる事象に対しては乖離が大きくなる可能性が高くなる。
この様に、理論の限界は理論の持つ前提の制約から来ていると考えられる。そのため理論の前提を理解しているとこれら限界も想像することができ、応用が効く様になる。