さっとん調査団

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感情の理論

様々な経営理論がはググれば多く検索でき、普段の生活の中でも色々と見聞きはするものの、 そんなにうまく行かないよな〜 と感じる事がよくある。人の判断は結局"感情"が関係してくるのでそんなに簡単にはいかないのでは?という感覚がある。

その感覚は正しい様で、経営における「感情の理論」というのも経営学の中で取り扱われており(割と最近から)、感情のメカニズムを把握することがリーダーや経営者に不可欠となってきている。

先般より、早稲田大学教授入山章栄さん著『世界標準の経営理論』について読み進めておるのですが、この記事では第22章感情の理論 をベースに現時点での科学的根拠に基づいた経営における感情の理論について概要・定石・昨今の動向などを網羅的にまとめております。どうぞ良しなに。

まとめのまとめ

  • AIに代替できない人らしさである感情が企業競争力の根幹となっていく
  • 感情→認知と影響を与えるが認知→感情という方向性もある。互いに不可分、相互影響している。
  • なんやかんやでポジティブが基本的にはいい影響が多い
  • 成功による慢心などで緩んだとき意図してネガティブ感情を利用し、引き締めることでサーチ((認知が限られている組織(意思決定者含む)が自身の認知の範囲を広げ、新たな選択肢を探す行動が進む。
  • むりやり表現を変化させるのではなく、ディープアクティング(自分の意識・注意・視点の方向を変化させ、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させてから自然に実施する感情表現)により感情と表現を一致ささせるのがいい
  • 個人としては普段から「多角的な視点」「広い視点」「相手の立場に立って考える」ことでディープアクティングにつながる。

感情のメカニズム

概要及び歴史

人の心理には認知と感情がある。

認知とは:外部から収集した情報を処理してアウトプットを出す「脳の情報処理プロセス」。thinkにあたる。

感情とは:人が物事に対して抱く「気持ち」。feelに当たる。

1980年代までの経営学の心理学ベース理論は認知心理を基にしていた。

1990年代から心理学で発展していた「感情の理論」が経営学でも取り込まれてきている。

感情への注目が集まる3つの理由
  1. 感情は認知に多大な影響を与える。感情→認知。合理的な判断を促す認知の部位(前頭葉)と、感情を司る部位(大脳辺緑系)が共存しあっている。
  2. 感情をうまく扱わないと、意思決定も十分にできない上、他者も動かせない。感情は遠くに伝搬しにくい。ネットの時代に入り、感情のこの特殊性をうまく扱うことへより注目が集まってきている。
  3. AIで代替しにくい。感情の重要性が人に残り、これからの時代企業競争力の根幹となっていく。

感情マネジメントはこれからの企業競争力の源泉となりリーダー・経営者に欠かせない資質となる。(経営方針にも情緒的な内容を織り込む企業が出てき始めている)

3つの感情
  1. 分離感情:一般的に感情と呼ぶもの。怒り、喜び、憎しみ、恐れ、嫉妬、驚き、悲しみ、幸福感、妬み、いらつき、、、。短い期間で収まりやすい
  2. 帰属感情:感情の個性。陽気な人、心配性、怒りっぽいなど。ポジティブ感情、ネガティブ感情に大別される。どちらよりかPANSAS(Positive and Negative Affect Schedule)というテストで調べられる。
  3. ムード(職場・チームレベル):なんとなくそこに漂っている感情、雰囲気。

ムードの特徴

・チーム職場に漂う

・安定してチーム・職場に定着

・そのチーム・職場に限定的

つぶやき

リモートワークでTV会議が増えてきている中、感情が伝わりにくい事を改めて認識。カメラをオンにすることも心がけよう。またカメラオンのときは服装しかり、感情表現に注意しながら話をしよう。

 

感情の理論

感情イベント理論

以下の図が網羅的に表している。

f:id:SATTON_LONDON:20200518061339j:image

  •  感情は外部イベントから刺激を受けることで始まる。分離感情をもたらす(①、②)
  • ポジティブな外部刺激よりもネガティブな外部刺激の方が、心理的な影響度が大きい。感情の非対象性(emotional asymmetry)。5倍という計測結果もある。
認知評価理論
  • 外部刺激→分離感情の体験の間に認知評価(cognitive appraisal)が挟まる
  • この認知評価は帰属感情に影響される。⑤
  • 認知評価→分離感情の体験→帰属感情→認知評価 とサイクルがある。ポジティブ/ネガティブ感情が強いひとはその特性がこのサイクルを通してより強くなっていく。
ムード理論
  • 人は感情を外に向けて表現され、周囲に伝達される(感情伝播)。⑥
  • 感情は遠くまで伝播しないため、リーダー・経営者はいかに感情を企業の隅々まで行き渡らせるかを考える必要がある。
  • 具体例:2014年日本コカ・コーラ会長から資生堂社長に転じた魚谷雅彦さんは就任後海外を含めた現場を周り、1万人ちかく社員に語りかけていた。「自分の感情を伝播させること」を目的に。

感情が人・組織に与える複雑な効果

このような仕組みを理解したら、じゃー、こういった感情の効果はどの様に人・組織に影響を与えるのか が気になってくる。常に組織にポジティブ感情を持ち込むべきか?時にはネガティブ感情も有用な場合があるのか?

いくつか法則がある。

  • ポジティブ感情は、仕事への満足度を高めやすい
  • ポジティブ感情は、モチベーションを高めやすい。
    ポジティブ感情→自己効力感向上→モチベーションアップ。(第19章モチベーションの理論 で自己効力感・モチベーションの関係性参照)
  • ポジティブ感情は、他者に協力的な態度をとる事を促す
    e.g. ポジティブな感情を持つ人の方が、同僚・上司から仕事上のサポートを受けやすい
  • ネガティブ感情は、満足度を下げるのでサーチを促す
    ネガティブ感情は人・組織の気持ちを引き締める効果がある
  • ポジティブ感情は知の探索を促す
    ポジティブ感情は満足度を高めて組織の雰囲気を緩めてしまうが、雰囲気を引き締めてサーチを続けるなら、「多少は精緻さ、厳密さを書いても、より大胆で新奇性の高いアイディアを求める」ことを促す
  • ネガティブ感情は知の深化を促す
    現状を正確に・ミスなく、修正・改善する意識を高める。ネガティブなムードの方が、分析的に考え、正確性を求める傾向がある。

<図での表現>

f:id:SATTON_LONDON:20200518064807j:image

サーチ:認知が限られている組織(意思決定者含む)が自身の認知の範囲を広げ、新たな選択肢を探す行動。現状に対する満足度が低いほどサーチが活発化、「自分の認知はまだ狭く、この夜にはもっと自分をサティスファイさせてくれる選択肢があるのではないか」と考える。(第11章カーネギー学派の企業行動理論 参照)。知の探索(幅を広げる)・深化(掘り下げる)に大別される。

アスピレーション:目標

サティスファクション:仕事の満足度

+、ーは相関の方向性。+であれば上がれば上がる。ーは上がれば下がる。

 

つぶやき

ポジティブ感情がポジティブに働く事が多いのでほぼほぼポジティブ感情の漂うムードがある方がいい様に見える。ネガティブ感情が効果的に働くのは組織に慢心があり緩んでいる時、気を引き締めたい時。何か一つ成功して、これでいいやと思う時に気を引き締め次の種をみつけるサーチを促す。

 

感情ディスプレイを巧みに操れ(感情制御)

上記で感情のメカニズムが理解できたが、どの様にコントロールするのかが難しいところ。人為的に感情を調整する事を心理学・経営学では「感情制御」と呼び研究が進められている。

Emotional Intelligenceという言葉が注目されている。先に流行った「EQ心の知能指数」((D. Goleman, 1995. Emotional Intelligence, Bantam.が有名どころ。なるほど。本が流行った当時に読んではいたが、こういった研究の流れがある中で流行っていたのかと納得。

EIの4つの要素
  1. Perceiving:自身や他者の感情にきちんと注意を払えているか
  2. Using:特定の勘定が認知にどのような影響を与えるかを把握できているか
  3. Understanding:感情が時間とともに変化するなど仕組みを理解できているか
  4. Managing:感情をうまく制御できるか

・EIを計測するテストMSCEITがある。EIが高いとあらゆる場面でパフォーマンスが高い。

EIの研究は今も盛んに研究されているが、特に研究が進んでいる分野として「感情表現」があげられる。

感情表現、笑顔の効果
  • 笑顔が増えることに因るいい効果が多い。アイコンタクト・笑顔による顧客満足度向上、
  • 一方で無理して作る笑顔のネガティブな側面も明らかになってきている。すぐバレる。本人が鬱状態になる。

じゃー、どうするのがいいか?

感情労働理論

サーフェース・アクティング

外に上限する感情と、自分の本心にギャップが有る状態での感情表現

ディープ・アクティング

自分の意識・注意・視点の方向を変化させ、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させてから自然に実施する感情表現

CAの例

あるCAが機内で酷いクレーム対応をした際、その乗客が初めて飛行機に乗る人ということに気づき、初めての経験のため不安で苛ついているんだなと理解することで、同情へと感情が変化した。顧客の態度をどう捉えるか という認知の視点をずらして感情を変化させた。ディープ・アクティングを行った。

認知を動かし感情を動かす

ディープアクティングの有利な点

・心理負担が小さい

・自分の感情に沿った表現となり周囲の人が影響を受けやすい

 

いずれにしろ自分の本来の感じ方を無理やり変えているから良くないという声もあるが、感情を変える出発点が「認知の側にある」ということが重要

「多角的な視点」「広い視点」「他者視点」を持つことの重要性につながる。認知→感情の方向性。